29の日(SS)。

創作分野における頭の働かなさったらない今週です。
月中の日付の感覚が無いうちに9月が終わろうとしているなんて○| ̄|_


原稿進まないとSSに走ってしまうのは何故か。
てな訳で、今日は29の日なSS。
画像は仙台で食べた高級な焼き肉(笑)。席にこの状態で出された(笑)。

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ロイの家に訪れると、自宅にも関わらず豪勢な、見ただけで高級なだと分かる肉が置いてあった。
「なにこれ。どしたの?」
「買った」
男の家に食材があること自体珍しい事なので尋ねると、彼は実に簡潔に答えた。
「え?買ったの?アンタが?貰ったんじゃなくて?」
料理は壊滅的な腕を持つ男が自ら食材を買うなど、どうしたことか、と驚いた。
「焼き肉位できる」
「まぁそうだけど」
こちらの問いの意味を正確に汲み取った男が憮然と言った。
「期末で疲れていてね。精をつけようかと。君が来ているし、奮発した」
「ふぅん」
高級取りの男が奮発などと言うのは、自分の腕を知っているからだろう。
シェフによって料理されるものには糸目をつけないけれど、それは腕代も込まれる。彼の実力からしたら確かにあの材料は奮発だ。
「オレ焼いてやるよ。肉屋にいたから上手いぜ?」
「そうか」
肉屋にいたからこそ、勿体ないと思ったのは秘密だ。


ジュージュー。
食欲をそそる、肉の焼ける匂い。「うまー!」
「それは良かった」
見た目も匂いも予想を裏切らない味にエドワードは舌鼓を打つ。
一方ロイは普段より口数が少ない。
「ずっと忙しかったのか?」
「今日までは」
「何か喋らないけど疲れてる?オレ帰ろうか?」
「いや。君のために用意したから遠慮せず食べてくれ」
黙々とした様子のロイに提案してみるが、そう返される。
「・・・飢えていてね」
「へ?」
「焼くのに集中していないと・・・」
「あぁ、腹へってんのか。こっち焼けたぜ」
食べる暇もなかったんだろうか、とエドワードは空腹らしいロイにいい具合に焼けた肉を置いてやろうとして、
「君を今にも押し倒してしまいそうだ」
「・・・は?」
ボテ、とロイに渡そうとしていた高級な肉が落ちた。
「君が来ていると聞いたから奮発したんだ。たくさん食べてくれ」
エドワードが固まっていると、何事も無かったかのように、また肉を買った経緯を説明するロイ。
聞き間違いだっただろうか、とエドワードは落ちた肉を自分の皿に戻そうとフォークで掬った。
自分も今回は旅が長かったから疲れているのかな、と思った。
「精をつけたくて」
「うん」
話を繰り返す辺りやはりロイは余程疲れてんのかな、と相槌を打った。
「だからたくさん食べてくれ」
「おう。ってアンタも食べろよ。オレばっか食ってんぞ。精をつけるんだろ?」
再び良い具合に焼けた肉をロイに差し出す。
「あぁ。だから---」
「だからオレじゃなくて」
「---だから、これからたくさん動くから君はたくさん食べてくれ」
ボテ。
「うん・・・?」
たくさん動く?
『君は』たくさん食べてくれ?
「それで精をつけるから」
「・・・うん?」
『それで』?
「だから君には体力をつけておいて貰わないと」
「・・・」
ガタンっ!とエドワードは立ち上がった。
「もう終わりかね?」
「お、お腹もいっぱいなったし帰・・・」
ユラリとロイも立ち上がった。
言いかけたところで遮られる。
腕を捕まれた訳じゃないのに、身体が動かない。
肉食獣のような黒い瞳に射すくめられて。
「あ・・・」
壁にトンと追いやられる。
「---飢えているんだ」
ペロリと舌を舐める、獣。


コクりと鳴った喉はどちらのものだったか。



噛みつくような口付けを交わして。

言葉通り飢えた狼に、身も心も食べられた。

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