数億年ぶりにオフ本派生でない新作(大袈裟)ロイエド小噺書きました〜。
一度書き始めると楽しくなりますね(書き切れるとは言っていない)。
いつもの日常話&ややギャグです。
+++あつい
年中旅暮らしの子供が報告に帰ってきていると聞き、会議の後そのまま執務室へ戻った。
「鋼の。戻って来たのか?」
ガチャと扉を開けながら声を掛けるが、姿が見えない。普段だと勝手知ったる体で、執務室で寛いでいるのに。
「鋼の?」
「うーい…」
もう一度声を掛けると、下方からヘロヘロな声が聞こえた。
「うん?」
良く見たら、ソファと仲良くなっている金のアンテナ。
「君は何をしているんだね…」
「う〜…」
唸り声がくぐもって聞こえてくる。
デロッとしている、と言う形容詞が相応しい姿で、金色の子供は上着を脱いでうつ伏せに寝そべっていた。
「暑い〜…」
「夏だからな。それはともかくだらしないぞ」
不敬は今更なので不問にするとしても仮にも上司の前なのだから起き上がる位はしろ、と、体勢は変えないままの子供に周り込んで、ペシリと叩く。
「う〜…」
再び唸り声を上げてノロノロと身体を起こす子供。猫のようだ。
「まったく。暑くなってきたとは言え、鍛え方が足りんのではないか? ここよりも暑い南方にも行っていたろう?」
会議の資料を机に置き、そのまま内線を掛けて冷たい飲み物を持ってきて貰えるように頼む。
「そーだけど…」
クテリと未だソファと仲良くなりそうな子供に、ヤレヤレとまたソファに戻る。
と。
「…君、顔が赤く無いか?」
正面に回った事で見えた顔は、いつもより頬が上気していた。いくら暑いとダレていたとしても、ずっと元気が無いのはこの子供には珍しい、と気付く。熱中症だろうか。
「そう…? なんか、ずっと機械鎧の熱が上手く抜けなくて…」
つい、と顔に張り付いた金髪を払い、額に触れると少し熱い気がする。
それに嫌がるでもなく、少しボンヤリとした様子で腕を上げて、排熱上手く行ってねぇのかな、と呟いた。
「どれ…熱いな」
彼の右手を取ると、熱が籠もったような熱さ。ずっと触れているには厳しい温度で、これは逆上せるかもしれない。
「…メンテナンスにはきちんと行っているのかね?」
「うーん、そろそろ行くか、って所だった…」
小言とも取れる質問にも珍しく反発せず大人しく右手をこちらに預けたまま、ポツポツと返す様子に、相当参っているのだろう。
普段より静かで表情も少し弱々しい感じがするからか、年齢より随分と幼く見える。
「仕方ないな」
はふ、と息を吐く子供に、胸元のポケットから手帳を取り出した。
「なに…?」
不思議そうな顔をした子供の前で手帳を1枚破り、サラサラと書き込み、彼の右手に押し当て。
パキン。
錬成音が響く。
「ん…?…あ」
トロリとしていた金色の瞳が、何かに気付いたようにパシリと瞬いた。
「涼しい!!」
「それは良かった」
バッと右手を見やり、左手でペタペタと触り温度を確かめる子供。
「脚を」
「え?」
「脚もだろう? 見せたまえ」
「あ、おう!」
言うと子供は意図を解し、ブーツを脱いでズボンも脱いだ。
「…待て。何故脱ぐ。捲くれば良かろう?」
「へ? こっちのが良いかと思って…。機械鎧のメンテナンスの時、いつもこうだし…」
「…」
キョトリとされるのに、取り敢えず分かった、と手を挙げる。
「…まぁ太腿の接合部の温度加減には確認は必要か」
「加減?」
「冷え過ぎても痛むのだろう?」
「あ、うん」
「右腕は普段も見るから接合位置が分かるが脚は見ないからな」
ほぼ見ることの無い、左脚。
太腿の途中から機械鎧になっている。メンテナンスでは脱いでいると言う言葉に、尚更普段見ない自分では全体像を知らないと加減は難しい。
とは言え、この状況が副官の目に留まったら何と思われるか。さくさく進めよう。
「…取り敢えず終わったらさっさと着替えてくれ」
「…おう?」
「こちらへ」
気持ちこちら側に身体を向かせる。
服にも靴にも覆われている場所の筈なのに、機械鎧には細かい傷が目につく。それから人体錬成の代価である傷跡の残る生身の白い太腿。
小柄な事も相まって、アンバランスで危うい。
これが11歳の頃からか。
「…」
大人でも機械鎧の手術は音を上げると言うが、幼い子供は音を上げるどころか、翌年には自ら立って目の前に現れた事を思い出す。
「大佐?」
「…いや」
何でもない、と、その脚に錬成陣を押し当てて。
パキン、と再び錬成音が響く。
「…! 脚も涼しくなった!」
「それは良かった」
素直に喜ぶ子供にクスリと笑う。
大気を調節して放熱を促したのだ。今はヒンヤリしているだろう。冷え過ぎないように肉体との付け根の部分は少し効力を弱めてある。
「はー、すげぇ。アンタ、指パッチン以外も錬成出来たんだな」
「やかましい」
感動はしてくれたようだが、先程の大人しさとは打って変わって元の調子に戻り、余計な言葉が付いて来る。まぁそれでこそ彼だが。
「サンキュな!」
まったく、と思っていると、珍しく笑顔で御礼を言われ。まったく…、と思う。
元気になったのなら良い。
「余り無茶はするんじゃないぞ」
ポンと頭を軽く叩き、早く着替えなさい、と立ち上がろうとして。
その手をガシリと掴まれた。
「なんだね」
「なぁ、その錬成、教えて」
「は?」
「今後の道中も涼しくなりたい」
先程の様子を見るにも、切実な事は分かる。が。
「君は大気は専門外だろう? それに仮に発動出来たとしたら君、メンテナンスを怠るだろう?」
「うっ…」
図星だったのか子供は目を逸らした。
やっぱり。
専門外だが、彼の事だから説明はおろか錬成陣を見せたら解読出来てしまうだろうし発動も可能かもしれない。だが、自分で温度調節を始めた日には、機械鎧の不調に気付きにくくなるし、気付いても誤魔化しそうな気がする。
熱が籠ったり冷えすぎたりするのは機械鎧ユーザー万人の悩みらしいのでそこは事実で可哀想だが、排熱不良はまた別の話だ。
「痛みや不調は、生きて行く上での身体からのサインだ。誤魔化してはいけない。だからダメだ」
「えー、じゃあ見るだけ!」
キッパリと断るが諦め悪くこちらの手にある錬成陣のメモに手を伸ばす子供。
「ダメだ。君は見たら覚えるだろう?」
記憶力が良すぎる子供に渡してはならない。
「ちょっとだけ!」
「ちょっともダメだ」
当初ぐったりしていたのが嘘のように、元気良くメモを奪いにやってくる。
「いい加減にしなさ…っ」
「わっ」
ソファから飛び掛かってきた子供がバランスを崩して、咄嗟に抱えて、自分も諸共にソファから落ちた。
「いたた…」
「わ、ワリィ!…っあれ?」
「おっと」
落下時に腹の上に乗っかった子供は、さすがにバツが悪かったのか、勢い良く顔を上げて謝った。が、フラリとした。
「…大丈夫か? やはり熱中症かもしれないな」
「うーん…かなぁ」
前屈みになって額を抑える様に、冷気で喜んではいたが先程まではぐったりしていた彼を支えて暫く動かさないようにする、と。
「失礼いたします」
ガチャリ、と扉が開き、副官であるホークアイがアイスティーをトレイに乗せて入室した。
「お茶をお持ち…」
と言いかけて、こちらに視線を向けて止まった。
「…?」
何故止まったのだろう?と首を傾げて。
「…あ」
今の状況を悟る。
床でこちらの腹に馬乗りになった、(ぐったりと寝そべっていたせいで)乱れた髪に、(まだ普段の顔色には戻っていない)頬を上気させ、下半身はズボンを脱いだ(ままの)少年。
そして落下と目を回した際に支えた自身の手は彼の腰と肩を抱えたままで。
更に副官からの視界からだと、彼が勢い良く起き上がった際に下着が捲れたので、際どい所まで生身の右脚が見えているだろう。うっかりすると自分の腕で腰回りが隠れて何も履いていないように見えるかもしれない。
…その誤解は勘弁願いたい。
「その、中尉…」
しかも何故か少年はホークアイを見て顔を赤くした。
何故だ。
それよりどういう状況だ。
自分でもナンダコレ、と思う。
当然、副官もそうで。
丁寧にトレイをテーブルに置いてから、副官は一歩近付いた。
「…大佐」
ジャキン。
彼女の愛銃のセーフティが外れる音がした。
やはり誤解をされている!
「ちょ、中尉! 待ってくれ、これには訳が」
「中尉! これは、その、大佐が、その、脚触るから太腿見せろって! 」
「待て鋼の、それでは説明が雑だ!」
錬金術どころではなく、クールビューティーと称される副官から発されるオーラでどんどん下がっていく室温に、腹に乗ったままの子供も抱えて飛び起きた。
「あ」
と、恥ずかしそうに腰回りを隠すようにタンクトップを引っ張る少年。
普段そんな恥ずかしそうになどしないじゃないか。何故いま。
「大佐…?」
その仕草にますます部屋の温度が落ちた気がする。
「中尉! 誤解だ!」
「エドワード君? 大丈夫? こちらへいらっしゃい」
こちらに視線と銃口を向けたまま、未成年を保護するように声を掛けてくるホークアイ。名の通り、獲物を仕留める鷹の目だ。
片手でエドワードを子供抱きしたまま、片手でホールドアップするが、収めてくれる気配がない。
これはダメだ。
「…鋼の、降ろすぞ? 説明をしてきてくれ」
こちらが悪い訳ではないのだが、収拾がつかなさそうなので要請通りに副官に子供を渡そうとする、が。
「あ、いや…あの、大佐の所で、大丈夫」
大丈夫とは。
私は全然大丈夫ではない。
「庇わなくて良いのよ?」
チャキ、と銃が音を立てる。
ほら。
「鋼の、中尉の所へ…」
取り敢えず降ろそうとしたら隠れるようにしがみつかれた。何故だ。普段近寄りもしないくせに。
「あ、あの中尉! 俺は大丈夫だから、その、大佐と2人だけにしてもらって良いかな…?」
「え」
何故だ。
何故そんな更に誤解を産むような事を。
「エドワード君、本当に大丈夫…? 不埒な事をされていない?」
不埒とは。
「うん」
「何かあったら…いえ何かある前に大声を出すのよ?」
何か、とは。
「うん」
未だ隠れるようにしがみついたままのエドワードの顔とこちらの顔を訝しむように見て、副官は愛銃を下ろした。
「大佐」
「はいっ」
「一先ず退室しますが、節度ある行動をお願いします」
「はい…」
節度、とは。
節度も何も、何もしていないのだが、取り敢えず頷いておいた。
副官が退室して、2人。
「君…どう言うつもりだ…」
腕に抱えたままの子供に恨みがましく尋ねる。
いらぬ誤解をされたではないか。
「や、だって…」
モジモジと恥じらうようにする様も、だって、などと年相応の言葉も普段言わない癖に。
「だって、なんだ?」
「…中尉の前でパンイチなの、恥ずかしーじゃん…」
「……は? 豪快に自分から脱いだのは君だろう…? それに『いつも』と先程言っていたから幼馴染殿や幼馴染の祖母殿の前ではこうでは無いのかね?」
恥ずかしい?
女性の前だからか?
しかし彼のこれまでも女性の前なのでは。
「あの2人は小さい頃からで今更だし、慣れっつーか…」
普段からコレだし見慣れているし、と呟く。
「私は別に慣れていないが」
「そうだけど…。大佐と中尉じゃ違うじゃん
…」
「…」
ボソボソと言うのに。
なるほど、妙齢の女性の前では下着姿は恥ずかしいと言う事か。
思春期の気持ちは分からんでも無いが、いかんせん自分への風評被害が大きい。今頃なんと思われているのか。
「はーー、全く。さっさと着替えたまえよ。それからちゃんと中尉に説明してくれ…」
「おう。なんかワリィ…」
風穴を空けられてしまう、と溜息を付いたこちらに、小さく謝罪される。
「降ろすぞ」
腕にモチモチとした感触があるのは何だっけ?と、そう言えば子供を抱えたままだった、とソファにゆっくり降ろす、と。
「ふぎゃ!」
「今度は何だ…」
尻尾を踏まれた猫みたいな声を出した子供に、いささか疲れた声で問いかける。
ぐったりしていたのが嘘みたいに騒がしい。
「髪が軍服のボタンに絡まって痛ぇ」
見遣ると軍服の胸元のボタンに金髪がピンと引っ張られていた。しがみついてきた時に引っかけたのだろう。
「あーー、もう…。髪解くぞ」
「おう…ボタン外して良いか?」
「お好きにどうぞ…」
この状況から抜け出せるなら何でも良い。
「やべ、余計引っかかっ…いってぇ!」
「君ね…」
「エドワード君?! 悲鳴が聞こえたけど!」
愛銃を構えた副官がバン!と扉を開いた。
「「あ」」
ソファに降ろした子供の上に(髪が引っ張られないように)軍服の前を開けて覆い被さった体勢に、髪を解く手。剥き出しのままの脚。(髪が引っかかって)涙目になった金瞳。
「……大佐?」
執務室の温度は氷点下になった。
〈Fin〉