520SS。

520SS。
「とうっ!」
ズシンと腰の辺りに圧し掛かる重み。
「?」
顔だけ後ろを振り向くと、金色のしっぽ。
どうやら恋人に後ろからタックルをされたようだ。一応軍人なのでよろけることはないが。
「…何をしているのだね?」
「…」
意図が分からず質問をするが少年は黙して答えない。
「鋼の?」
今度は身体ごと振り向こうとすると、腰に回った手がぎゅうと力を増した。
「振り返るな、と言う事かね?」
「…」
答えない。
代わりにぎゅうぎゅうと腕が絡み付き、背中に顔を押し付けられた。
「…」
「…」
沈黙。
「…鋼の」
「…」
「…鋼の」
「…」
「…せっかくの記念日だから甘えてくれているのだろう?」
「!」
ピクリと動く身体。
今日は、彼と自分とのちょっとした記念日なのだ。
まだ言っていないが、夜は彼の好きなレストランの予約を取っている。
喜ぶ顔が見たいなと思って。
きっとそれは彼も同じなのだろう。
お互いちょっとした何かをしたい気持ちで。
「キミの愛情表現は分かりづらいね」
「…るせ」
傍から見ると、背後からタックル、なのだが。
多分、さんざん考えた結果なのだろう。
前に、たまには君から抱きついてくれたまえよ、と冗談交じりに言ったから。
その時は、やらねぇよ!と言われたけれど。
覚えていてくれたのだろう。
「そこが好きな所でもあるけどね。…ありがとう」
「っ」
ポンポンと自分の腹辺りに組まれている手を叩き撫でると、ぎゅう、と軍服の前を握りしめられた。
「…鋼の」
「…ん?」
「やっぱり前に来てくれないかい?」
「…」
「私も君を抱きしめたい」
「っ」
「顔が見たい」
「…」
さきほどと同じ黙だが。
躊躇うように、ゆるゆると腹の前あたりの組まれた手が解かれた。
その隙を逃がさず、手を取り引っ張る。
「あっ」
「―――…捕まえた」
小柄な彼は、引っ張られた反動で自身の腕の下を潜ってクルンと正面に立った。
抱き着いたのが恥ずかしかったのか、顔を見られたのが恥ずかしかったのか、どれが理由か分からないけれど、戸惑ったような照れた赤い顔をしていて。
「エドワード」
愛おしくて抱きしめた。
「うん…」
それに返してくれる手。

たったそれだけの事で幸せになれる。


大好きな人と過ごせる、大事な記念日。
それもまた明日になれば大事な記念日になる。
来年も再来年もずっと、記念日を作り続けよう。




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H23.05.20。
兄さん520の日記念突発SS(´∀`)
兄さんの顔が赤かったのは自分の行動が照れ臭かったのもありますが、捕まえた、と言った時のロイの顔がやたら嬉しそうだったからです。
ロイさん微妙に不正解(´∀`)

…あれ?日記SS今年初Σ(゚Д゚) ?!


拍手下さった方、ありがとうございました!

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