寒い・・・(SS)。

寒い・・・(SS)。
冬の雨。
ただでさえ雨は鬱々とするのに、冬ともなると寒くて適わない。
秋の雨はなかなかに風流なのに季節が一つ移っただけで、どうしてこんなにも寒々しくなるのか。
「・・・」
「・・・おいオッサン。眉間に皺寄せて無言で寒さ訴えるのヤメロ」
珍しく自宅に寄ってくれたエドワードが向かいのソファの上、本から顔を上げて嫌そうに言った。
「仕方あるまい。寒いんだ」
「自分ちなんだから暖房入れりゃ良いじゃん」
クイと暖炉を指差す子供。
「それはダメだ」
「何でだよ」
「今から暖房を使ったら本格的に寒くなる1月2月に耐えられないじゃないか!」
本気で訴えると、エドワードは本気で意味分かんねえと言う顔をした。
因みに彼の足は最初素足だったが、無理やり靴下を履かせた。
見ているだけで寒いし、自分の家にいるのに風邪を引かせたくないからだ。
「そんときゃ厚着すりゃ良いじゃねぇか」
「スマートじゃなくなるじゃないか」
着膨れた自分。
「別に家の中の話だろ。誰も見てねぇっつの」
「君が見ているじゃないか。君の前で恰好悪いのは嫌だ」
そう返すと、エドワードが僅かに口ごもった。耳が少しだけ赤い。
「っ、だったら耐えろよ」
「だから我慢していたじゃないか」
口にしたら益々寒くなる気がして黙っていたのだ。
が、子供からクレームが来て最初のやり取りだ。

「・・・大気系錬金術師だろ?何とかしろよ」
エドワードがぶっきらぼうに言う。
「色々試したが、部屋を一時的に暖めても外が寒ければ窓から冷えて持続されないんだ」
既に幾つか実験済みだ。
「ソウデスカ。だったらやっぱり大人しく着込めよ」
「だから君の前では恰好良くいたいんだ」
「寒さに弱いんだろーが!んな事気にしてんなよ!」
「君に関する事は引けないな」
恰好悪くて愛想を尽かされた日にはもっと寒くて寂しくなるじゃないか、と言うとエドワードは今度は頬をほんのり染めて、
「あーー!もう!」
ガタンと音を立てて立ち上がり、二階へと消えていった。

「しまった・・・」
駄々をこねた事に愛想を尽かされてしまっただろうか。
「あり得る・・・」
せっかく久しぶりに会えたのに。
珍しく家に来てくれたのに。
更に普段リビングに置かれる彼の荷物は泊まっていってくれるらしい意思をほんのりちらつかせて二階の寝室にあるのに。
しかし。
「・・・もしかして帰ってしまうのだろうか・・・」
ショックでソファの上でうなだれた。
ソファと仲良くなっていると、若干ヨタついたような足音が聞こえてきた。
「?」
「オイコラおっさん!」
バサリと頭上から毛布を落とされる。
「それでも被ってろ!」
見ると普段使っている毛布。ベッドから引き剥がして来たらしい。
「・・・ありがとう」
持ってきてくれた事にお礼を言うが、着膨れと毛布ほっかむりはレベル的には余り変わらないような気がする。
・・・好きな人の前では恰好付けたいのだが、エドワードがわざわざ持ってくる位情けない顔をしていたのだろう。
彼的には着膨れてようがどうしていようが、どうでも良いことなのだろう。
まぁずっと読書していればこちらなど見ないものな。
証拠にやれやれ一仕事終わった、と言うように再び読みかけの本を手に取った。
(帰られなかっただけでもマシか・・・)
彼の厚意だし大人しくモソモソと毛布を被ると
「おらもっとそっち行け」
「え?」
グイグイと押されて、エドワードがストンと隣に座った。
それから。
「はが・・・っと」
グイと毛布を引っ張られた。
「一人でたくさん使ってんなよ」
「あ、あぁ、スマン・・・」
慌てて毛布半分とちょっとを彼の小さな肩に掛けた。
「ん」
すると彼は満足したように手にした本を再び読み始めた。

「・・・」
「・・・」

無言の自分と読書をする彼。

「鋼の」
「・・・あん?」
「どうせなら膝の上に来ないかね?」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ」

彼の言葉は相変わらずつれないし、部屋の気温も変わらず彼が来た時と状況は同じだけれど。

今はこんなにも心も体も暖かい。


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寒い・・・!
ので突発SS。
今日こそパソコンいじりたい希望・・・。


画像は恵比寿にある某お店のチューリップ。
よく見るとチューリップに顔(のシール)が付いています(笑)。

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