突発SS。

突発SS。
少し秋めいた気配を感じさせたと思ったら、急に暑さを取り戻したりして。今年は9月も半ばを過ぎようとしているのに、全く気温が安定しない。
「何か急に暑くなったり寒くなったりしてんなー」
ノックなしでドアを開け様に言う子供。
「やぁ鋼の。久しぶりだな」
「・・・あれ?」
久しぶりに現れた子供は相変わらず挨拶を返す事なく、何か間違えたように首を傾げた。
「あれ?とは何だね。何か忘れ物でも?」
書き終えた書類を決済箱に入れ、こちらも首を傾げて子供を見やる。
「いや、アンタが半袖着てるところ初めて見た」
てくてくと歩いてエドワードが寄ってきた。
「私だって半袖シャツくらい持っているよ」
普段は長袖シャツばかりだが、正装時以外、基本的にアンダーシャツは自由だ。演習の時はTシャツも着る。
「うーん、そうなんだけど。いつもは袖巻くってるじゃん?アンタの事だから『長袖で半袖は代用出来るから買うの勿体ない』とか言いそうで」
「・・・」
何故分かったのだろう。確かにそうだ。
「図星だろ?」
無言で分かったのか顔で分かったのか、子供はニヤリと笑った。
「うるさい。こう気温が不安定だと体温調整が大変なんだ。寒い時は上着を着れば良いが、今年は暑い時は半端なく暑いからな。有事の際は暑くても上着を着ていなければならないし」
長袖に上着と半袖に上着は結構違うんだ、と言い訳がましくボソボソと言う。
いや、別に言い訳をする必要はないのだが。なんとなく格好悪い気がした。
・・・実は密かにこの少年に想いを寄せているのだ。
我慢強くないとか思われるかもしれない。
少し失敗したなぁと思っていると、
「ふぅん」
とエドワードは(こちらから見ると色っぽい)流すような目で袖から伸びる腕を見てきた。
「やっぱアンタ長袖着とけ」
つ、と生身の左手の指先で撫でられて内心ビクリとする。
「・・・我慢が足りないかね?」
「そう、かも」
肯定に明日からはなにがなんでも長袖を着ようと思う。
「では頑張るよ」
「そうして」
くるりと踵を返して金色の尻尾が揺れた。
あぁ帰ってしまうのか。
残念に思いながらも、今日は新しい文献もなく引き留める術がない。小さくため息をつく。
するとエドワードがドアの前で振り返った。
「その腕」
「うん?」
「その腕、出してたら見とれちゃうだろ。オレの方が我慢出来なくなる。だから禁止」
「え?」
「じゃ!」
言うだけ言ってエドワードは凄いスピードで去って行った。

しばし彼が出ていったドアを見つめて。
「え?ええぇ?!」
半袖で涼しい筈だったのに、急に暑くなった気がした。

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