空の日(SS)。

好きになってはいけない人を好きになってしまった。

「あーあ」
東方司令部の屋上。エドワードはゴロリと寝転がった。
扉が施錠されているこの場所へ来る者は誰もいない。自分?そんなの勿論ちょっと開けさせて貰っただけだ。今はまた入れないように元に戻してある。
見上げると、青い青い空。
その青さは誰かを連想させて腹が立つ。
「あーあ」
二度目のため息。
爽やかなスカイブルーが目に入らないように目を閉じた。
「ざまぁ見ろっての」
誰にでもなく悪態をついて、エドワードはふて寝を決め込んだ。


「空が、藍色・・・」
次に瞳を開くと、爽やかなスカイブルーは、艶めいた藍色になっていた。ビロードのような、上品な色。一番星が宝石を置いたように光っている。
それはまた誰かを思い出させて。
「イヤミー・・・」
一番になんかなれないのに。
目をつぶってゴロリと横に転がった。
「まだ眠るのかね?」
「!?」
頭上から降ってくる、声。
慌てて瞳を開くと少し離れた位置にいたらしい男が近寄って来た。
カツンカツンと夕闇に響く軍靴に、息を止められるカウントダウンのように動けなくなって。
やがて視界に夜の帳を降ろしに来たような男が映った。
「何でアンタがここにいんだよ」
「うん?君と同じ方法だが」
とぼけた顔で言う男。
そういう意味で聞いた訳ではないのだが、多分男も気付いていて返したのだろう。流れに乗ることにした。
「鍵使えよ、司令官殿」
「取りに行くの面倒じゃないか」
サラリと悪びれもなく返す。
「怠慢すんなよ。中尉にチクるぞ?」
「それは困るなぁ」
さして困った風でもなく、こちらを覗き込んだまま笑う男。
くそ、心臓に悪い。
「さっさと帰れよ」
「ここは私の管理下なんだが」
「オレが先にこの場所を堪能してたんだ。帰らないと中尉にホントに言うぞ」
頭上の男を睨み付ける。睨まないと情けない顔になりそうだ。
「それは困る」
「じゃあ帰・・・」
笑った男が近付いた。
目の前に、夜色の空。
唇の上に・・・。
「・・・あぁ、一番星だ」
ソロリと目の下を撫でられる。
「・・・え?」
「内緒、に」
自分の上に被っていた夜空が、1つ温もりを残して離れた。


「そう言えば空に秘密を聞いて貰おうとここに来たのだがね」
男はまたカツンカツンと夜空に音を響かせて、屋上の扉に近付く。
「一番星に伝えてしまった」
そう、言って。
扉の向こうに消えていった。


「え?」
見上げるとすっかり夜になった空。
でも。
「・・・大佐!」
エドワードは慌てて起き上がって、もう1つの夜空に飛び込んで行った。


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今日は空の日なんだそうです。
聞いて涌き出たSSでした。

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