脱稿明けの勢いで携帯打ちしたSS。

脱稿明けの勢いで携帯打ちしたSS。
「・・・終わった!」
夜の司令部資料室。
査定のレポート作業がやっと終わった。
「今回ばかりはヤバかった・・・」
何せ締切は明日。
フラリとたまたま訪れた東方司令部で何気なくロイに「今年は何をテーマに書いたんだ?」と聞かれるまでスッカリ忘れていたのだ。
「明日の朝一番の軍の速達便に乗せてやるから今日1日ででっちあげろ」と呆れたように言われ、延々籠もっていたのだ。

「うっわ、もうこんな時間か・・・。大佐の印とサイン、明日の朝じゃねーと無理かな」
セントラルの大総統府に直接持ち込みか、各司令部で提出も可だが受付承認が必要なのである。
メンドクセーなぁ、とふと外を見やると、夜空でも分かる白いもの。
「げ、雪か。どーりで寒いと思った。あー・・・明日の朝一番だし今日は仮眠室に泊まるかな」
まだ積もっていないだろうが明朝は分からない。雪道で遅刻では今頑張った甲斐がない。
ブツブツ言いながら、疲れた目を休めようと、ソファに身体を沈め眉間の辺りを揉んだ。

「−−−終わったかね?」
目を閉じていても走った影にパチリと目を開く。
いつの間にやらソファの背後にロイが立っていた。
「あーまぁ何とか」
行儀が悪いとは思いつつも、ソファにだらしなく座ったまま応える。今更気を遣う相手でもないし、ロイも今更何も言わない。
「まったくどうして君は綱渡り人生なんだ」
呆れたように言うロイに
「しょっちゅうギリギリまでサボって中尉に怒られてる人に言われたくありませんー」
ケッと返す。
「君ね・・・」
ヒクリとしたロイに、あぁそうだ、と声を掛ける。
「いつもの承認のサイン、明日何時に持ってけば良い?アンタの事だから読んでからサインすんだろ?」
でっちあげだから、中身は薄いだろうが、さすがに国家錬金術師用のレポートだ、なかなかのボリュームがある。目処としては一時間位だろうか。
ついでに辻褄の添削をして欲しいなー、と思う。案外細かく見るのだ、この男。だから揚げ足取りも上手いのだろうが。
「そうだな・・・」
「っ、」
と、ロイは考えるように背後からソファの背を支えに、机に置いてある出来上がったばかりのレポートを手に取った。
ギシリとソファが鳴り、左肩の後ろには手が添えられ、顔と右肩の間に軍服の袖が通って、何故かドキリとした。
「ふむ、この位なら今読んでしまおう。印は執務室にあるから後になるが」
ペラリとページを捲ってロイが言うのに、
「マジで?」
思わず顔を上げたら逆さまにロイの身体と顔が見えた。
「君のテーマはいつもなかなか興味深いし、朝は余り時間が取れないからな」
ゆっくりは読めん、と言った。
「あー・・・ワリ」
朝は申し送りや夜勤からの報告、1日のスケジュール打ち合わせと言った定例事項がある事をエドワードも知っている。当然、司令官であるロイは結構朝は多忙なのだ。そこに無理矢理ロイの口添え付きと言う形で仕事を増やしてしまった。
「いや構わんよ。その為に早起きする事もあるまい。私も早起きしたくない」
どうせ泊まるしな、とロイが外を指差して言った。
「・・・アンタ寒がりの低血圧だもんな」
こちらに気付かって、ワザとふざけたように言うのに素直に乗っかり、ロイもまた揚げ足取る事なく渋い顔する事で流した。
「ふむ、物質エネルギー・・・か」
話しながらもロイの目はレポートを追い、集中していってしまった。

(・・・っつーか)
意識を集中し始めてしまったロイは、ソファの背に斜めに腰を下ろしエドワードの頭上でレポートを読んでいた。
(人の頭上でこれ見よがしに動いてんじゃねーよ)
小さいと言われているようで腹が立つ。
(クッソー・・・ん?)
睨みながら視線を上げると、レポートで顔は見えないが上半身が少しだけ覆い被さるように見えた。
(・・・へぇ)
少し座り位置を直してマジマジと見つめる。
(あんま近くで見たことなかったけど、案外体格良いんだな)
優男、と言うか軍人の中ではスリムな方だろうと思っていたが、実際は身体の幅がエドワードの肩幅以上あった。
軍服の生地の厚さを抜いても、身体の厚みも思ったよりあった。
チラ、と見やると、珍しく集中している顔。
(真面目な顔してりゃあオンナノヒトにモテるってのもまぁ分かる、かな)
ロイが冗談のように「文武両道、容姿端麗、スタイル良し、地位も名誉も資産もあって参るね。どうだ?魅力的だろう?」と言ってくるのも強ち全否定は出来ない。
(クッソ・・・。オレも良いとこ言ってるのに・・・やっぱ体格かぁ・・・)
鍛えても悲しいかな、まだ子供の体格だ。それなりに筋肉は付くが、ガッシリとした、と言う身体にはならない。
(ハボック少尉程じゃなくても、せめてコイツ位・・・)
ジ、と見ていると。
「・・・さっきから一体何だね?」
ロイが少し困ったように言った。
「んー・・・、いや」
「なんだ、見とれたか?」
「んなわけ・・・」
からかうように言ってくるのに反論しようとして。
「あー、うん見とれた」
棒読みで言うと、男も反論されると思っていたからか、目をパシリと瞬いた。
「は?」
「見とれたから見せろ」
言うなり、目の前の軍服を開いた。
「な、おい、」
うろたえたようにするロイに構わず、現れた白いワイシャツを力任せにズボンから引っ張り上げた。
「ちょ、君いきなり何をするんだ!」
「腹筋見せろ」
身をよじるロイを逃がさず、シャツを捲り上げて左手をはわす。
「クッソ、やっぱ分厚いな」
「おい、ま、待ちなさい」
珍しくうろたえるロイに
「何だよ、くすぐったがり?」
意外な所で弱点を見つけた!とエドワードはニヤリとして、腰を狙って触りまくる。
「ちょ・・・コラ、」
「何だよ案外オーソドックスな所弱いな」
わざとソロソロとした手つきで腰から脇に向かってなで上げる。腹筋確認を忘れつつあるエドワードの手をロイは掴み、
「・・・・・・いや、手が冷たいんだ。この部屋は冷えるだろう?」
しばしの間の後、言った。
「あ、そか、ワリ」
ずっと暖房の無い部屋に籠もっていたのだ。確かに冷たいかもしれない。
パ、と引っ込めようとした手をロイは掴んだまま、ニコリと笑った。
「そんなに見たいなら、左官用仮眠室で見せてあげよう」
「・・・なんでその部屋?」
笑顔に何だか妙な気配がするのは何故だろう、と思いつつ、気になった事を聞いた。
「仕事部屋で服を脱いでいたら一見変態じゃないか。あの部屋は細工をして空調が万全なんだ」
「あー、なるほど。でもアンタ普通にしてても変だから心配しなくても大丈夫じゃね?」
理由に納得しながら言うと
「・・・余り生意気な口を叩くものではないよ。まぁ、良い。暖かくなった所で君のリクエストに応えてやろう。思う存分見ると良い。背中にも手を回して測って良いぞ」
綺麗な笑みで言った。
「う、うん?」
ガシリと掴まれた腕に、何かマズい事を言ったかな、とエドワードが思ったが。

・・・後の祭り。



翌朝、扉越しに朝の定例報告に応えているロイの声が聞こえる。



「あいつ早起き苦手とか言ってた癖に・・・」
散々ロイの体力やら身体のサイズやら、背中に腕が回らない事を知り、
「いってぇ・・・」
身体の見ようと思っていなかった部分、その他諸々やら見てしまったり知ってしまったり、それどころかこちらのサイズの全てを知られたり見られたり、触られたりしてしまった。
そして何度「変態」と叫んだか。

−−−エドワードだけが知る。

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