残業明け腹減りながら帰宅中SS

残業明け腹減りながら帰宅中SS
「腹減ったなぁ・・・」
司令部からの帰り道。
ロイはボソリと呟いた。
朝から忙殺されていて昼食を取り損ね、夕方に起こった事件で外に出て今に至る。
何だかんだとタイミングを逃し、今日は朝にコーヒーを飲んだきりだ。
「この時間だとパブか・・・」
レストランはラストオーダーを終えた時間だ。
馴染みのパブなら開いているが、今から行くと確実に深夜帰りだ。正直今日はもう寝てしまいたい。
家に何か食材があっただろうか、と頭を巡らせて、すぐに諦めた。
「さっさと寝てしまおう・・・」
酒の一杯でも飲んでベッドに入ってしまおう、と決めた。
「あれ?大佐?」
背後から聞き慣れた、だが久しぶりの声。
振り向くと、夜でも鮮やかな赤いコートに金髪。
「鋼の」
「・・・アンタ何かヨレてねぇか?」
挨拶もすっ飛ばして怪訝な顔で聞いてくるのはやはり鋼の錬金術師・エドワードであった。
「失礼だな。君こそこんな時間に何しているんだね」
「オレは夜にここ着いて、晩飯食ってきたトコ」
何故だかリンゴを片手にくい、とレストランの多い通りを指差す。
「晩飯、か」
満腹で機嫌良さげな、エドワードの口元を見やる。
「おう。デザートにアップルパイが出てさー。女将さんが今日はもう店仕舞いだからお土産に、ってパイとリンゴをオマケにくれて」
ホラ、と嬉しそうに紙の包みを掲げた。
焼きたてなのか、ホワリと香るバターとシナモンの香り。
空腹にはそそられる匂いだ。
「・・・旨そうだな」
「旨いぜー。ん、リンゴが甘いんだな」
エドワードはシャクリ、と手にしていたリンゴをかじった。
「で?アンタ何で1人な訳?」
キョロリと見回して部下も軍用車も無い事を不思議に思ったらしい。
「あぁ、先程まで事件で外に・・・」

グゥ。

説明しようとして、夜の街に緊張感の無い音が響いた。

「・・・」
「・・・」

2人、しばし無言になる。
実際何も食べていない所に、パイの良い香りがしたので、この反応は健康な証拠である訳だが、些か情けない。
「あー・・・、これはだな、今日は食事を取るタイミングを・・・」
てっきり爆笑されると思った子供から反応がなくて、こちらから声を掛ける事にした。
「・・・」
「鋼の?」
まだポカンとしている子供に再び声を掛ける。
顔を覗くと大きな金瞳が更にまん丸になっていた。どうやらビックリしているらしい。
何故ビックリしているのかは良く分からないが。
「アンタ・・・」
「うん?」
ようやく声を発した子が。
「腹減ってんの?」
当たり前の質問をした。
「・・・私も人間なので腹は減るが?」
君を良く食事に誘っているじゃないか、と言うと。
「あー・・・うん、そうなんだけど」
「けど?」
続きを促すと、うーん、と、視線を彷徨わせてエドワードはモゴモゴと言葉を発した。
「・・・いや、腹は減るだろうし飯食ってる姿も想像できんだけど、なんつーか、腹は鳴らさないっつーか」
言い辛そうに一旦言葉を区切って。
「アンタそつが無いから、そーゆー姿を人前でさらさないっつーか・・・」
ゴニョゴニョと言って、視線を逸らせた。
今度はロイがポカンとして。
「・・・それは遠回しに私がカッコイイと言ってくれているのかな?」
尋ねると
「んな事言ってねー!」
グリンと振り返って怒り出した。
だってそうではないか。
カッコ悪い様子が思い付かなかった、と言う事だろう。
「ははは、いや、君にそう思って貰えるとは光栄だな」
「言ってねーっつの!」

ぎゃあぎゃあと騒ぎ出したエドワードとひとしきりからかい・・・基い舌戦しあって。

「ん」
「ん?」
ズイ、と包みを突き出された。
「やるよ。飯食ってねーんだろ」
無理やり手のひらに押し付けてきた子供に。
「ありがとう。でも君が食べなさい。楽しみにしてるんだろう?私は何か買って帰るから」
やんわりと押し返そうとすると、更にグイグイと押された。
「オレはさっき食ったし。それにこの先にこの時間開いてる店なんかねーだろ」
フン、と鼻息荒くエドワードが言うのに。
「しかし君、好物だろう?」
この子は甘党で大食いだ。
だが。
「これで充分」
と、手にしていたリンゴを掲げた。
「明日会議中に腹鳴らして中尉に撃たれんなよ」
ニッと笑う子供に。
「おや、心配してくれるのかね?」
笑って聞くと。
「ちがーう。アンタじゃなくて穴のあいた部屋を修理するだろうハボック少尉が心配なんだよ」
エドワードはイーッと舌を出した。
「・・・では遠慮なく」
「おー」
包みを掲げると、エドワードは良くできました、と言うように笑った。

「・・・遠慮なしついでに」
「うん?」
ポツリと呟いて、エドワードの関心がまばらになった隙に。
「へ?・・・っうわっ!」
グイ、と手を引っ張って。
シャクリ。
と、小さな手のひらにある食べかけのリンゴをエドワードの手ごと口元に引き寄せ一口頂戴した。
「な・・・、アンタ何やってんだ!」
「うん、甘いな」
ペロリと唇を舐めると、エドワードは呆けたように固まった。
「・・・そうだろ・・・、ってそうじゃなくて!」
ハッと我に返って、離せごるぁ!と暴れ出した。



糖分を欲するリンゴの甘さが心地良いのと。
疲れも吹き飛ぶ、君の優しさが甘くて心地良い。



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腹減った、と思いながらの今日の帰宅中に携帯ポチポチ打って作った突発話(またか)。
途中で家に着いてゴチバトル観ながら胃を満たして後半書きました(笑)。
画像は先日行ったビュッフェのスウィーツ。
焼きたてワッフルアイス乗せ込み7種類食べました(笑)!←その前に食事もビュッフェでモリモリ食べてる人。

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