雨の日の秘め事。(SS)

雨の日の秘め事。(SS)
※ペーパーNo.13SSの続きです。


シトシトと降る雨の音。

「大分弱まったな」
汚れた窓の合間を覗いた男が言った。
「・・・信じらんねぇ」
「何がだい?」
「何って・・・っつ!」
白々しく笑って聞き返して来る男に詰め寄ろうとして失敗した。
「・・・大丈夫か?」
唸って、ボロボロのソファの上で男の上着に包まる自分に、さすがに苦笑して近寄って来た。
「大丈夫じゃねー。ヘンタイ」
ブツブツ文句を言うと、ギシリと音がして男もソファに座った事が分かった。
「ヘンタイとは心外な。誘ったのは君じゃないか」
「誘ってねぇよ!ってぇ・・・」
「無理するんじゃない」
宥めるように意外と優しく身体を撫でてきた。
雨で少し肌寒いから、暖かさが心地良い。

「誰のせいだよ」
「2人のせいだろう?」
「アンタが最初に、」
獣のような瞳で見られて。
キスされて。
「君だって熱烈なキスを返してきたじゃないか」
「あれは・・・!っつか、だからって、あんな、」
貪るように抱かれた。
・・・初めて。
「魅惑的な君が悪い」
「オレのせいかよ」
「我慢出来なかったんだ」
男の方こそ魅惑的に笑った。
「・・・人ん家なのに」
「空き家だよ」
「声、聞かれたかも」
「雨が消してくれるし誰も通らないよ」
ちゅ、と軽くこめかみに口づけられる。
「・・・恋人同士でもないのに」
そうだ。
それが、一番の、問題。
雨が降るまでは、確かに上司と部下の視察なだけだった筈だ。
「恋人だよ」
しかし男はそう決め付けた。

「・・・何で」
「それは私が君を好きで、君が私を好きだからだよ」
自信満々に断言して、今度は唇に口づけてきて。
お互い視線を逸らさず、唇を重ね合わせる。
「・・・・・・何その自信?」
唇を離して、でも唇が触れ合いそうなままの距離で問いかけて、
「違わないだろう?」
口を開かせるように顎と下唇に指を掛けられる。

獰猛な獣の、黒い瞳。

強い、視線。

「・・・そう言う事にしてやるよ」


首に腕を回して自分から距離を縮めた。

押し倒されたソファのギシリと軋む音と。
絡まり合う水音と。
別の水音が耳に流れる。


弱まりかけていた雨は、ザァ、と雨足が強くなって。


密事の音は、かき消された。


知らない町の、林道の奥。
雨だけが知っている、秘め事。


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大阪の帰りに書こうと思っていたペーパーNo.13SSの続き。

サイト更新出来ずすみません・・・。

画像は曇天の虹。・・・見えづらいけど(^^;)。

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