指先。(SS)

指先。(SS)
報告書を提出して。
ソファで質疑応答をしていると、書類を示した拍子に少しだけ、指先が触れた。

それに、ふいに、
いつかの夜を思い出した。


「・・・ここはそうだな、もう少し詳しく、それから」
お互い少し斜めに座るようにしたソファ。隣から低い落ち着いた声が響く。

『・・・鋼の・・・』

ソレが少しの興奮を乗せて掠れた声になるのを知っている。

「・・・次は事故届けにあるものと食い違っているな。何かやったろう?」

からかいを乗せて来る声。

『・・・我慢、するものじゃないよ?』

意地悪く言って来る声も、知っている。

「うるせ」

「うるさいとはご挨拶だな。ちゃんと直しておくように。次、この記述だが・・・」

書類に真剣に落とされる視線。

---書類ばかり見てないで。


『 』

真摯に愛を告げられた、あの日。
真っ直ぐな瞳と、握られた手。
耳に残る声音で紡がれた言葉を思い出して息を詰めた。

「鋼の。聞いているのか?」
「・・・っ聞いてる・・・っ」
黙っている事を怪訝に思った男が顔を覗き込んで来た。

「鋼の?何だか顔が火照っているようだが熱でも?」

ただ隣に座って仕事の話をしていただけだから、そう、思われても仕方ない。
が。
確かめるように頬に触れてきた指先にビクリとする。

・・・最後に触れ合ったのは2ヶ月前。
柔らかく、でも離すまいとするように、触れられた、指先。


「・・・鋼の?」
「あ・・・」

そっと離れていこうとした手を捕らえて。
指先を、口に少し含んだ。

「はが・・・?っ!」

歯で軽く噛んで、舌先で舐めて。
ちゅと吸い上げるように唇で挟んで。
離した。

「鋼の・・・」
「・・・え?あ・・・」

いくらか呆然としたような声が掛かり、はっと我に返る。

見上げると珍しく少しだけ頬に朱を挿した、男の顔。

「ごめ・・・」

仕事を真面目にしていたのに、何故か自分だけが妙に落ち着かなくなってしまって、申し訳なく思う。

「いや・・・。あー・・・その鋼の?」
「・・・なに」
言いづらそうにする男に、居心地悪く視線を逸らしておざなりな返事をすると。
「・・・・・・執務室でも良いかね?」
「・・・え?」
意味が分からず思わず見上げると。

指先が、頬に触れた。

と思ったのは一瞬。

そのまま顎を取られて親指で下唇を撫でられて開かされて。
「んンっ」
深く口づけられて、ソファに押し倒される。

バサリと書類が舞った音がした。

「・・・君は反則、だな」
口づけの合間に目尻を指でなぞられながら、男が言う。
「・・・どっちが」

そんなに熱を孕んだ瞳で。
包み込むような声で。
手中に収めたいと言わんばかりに触れる指先で。

「では、共犯だ」
「・・・いいね」


目線を合わせて、左胸に誓うように指先が這わされる。


さっきまで仕事の方が大事だったその3つは。

今は、オレのモノ。


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珍しい兄さんの嫉妬と誘い受け話(笑)。
と言いつつ増田さんも2ヶ月ぶりで我慢出来ず(笑)。
思い付きSSでした。

しかし連日残業の疲れが抜けず眠い・・・。今日は殆ど寝てました・・・。まだ眠い・・・。気を抜くと寝てしまいます(苦笑)。

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