イベントのお供に花火SS。

イベントのお供に花火SS。
※未来捏造です。



夜まで及んだ業務。
定時を過ぎて大分人の減った司令部の静けさの中、執務室で未だ仕事と格闘している男とそれを少し呆れた様子で見遣る金の瞳。
「おーい。未だ終わらないのかよ」
「もう少しだ」
「それ30分前にも聞いたんだけど」
「本当に後少しだ。ほら!」
バ、と、未決済箱残り3枚を示される。
だから未だ帰るな、と言う事だろう。
一応彼の書類を受け取らないとこちらの仕事も終わらない訳だから、そんな必死にならんでも、とエドワードはソファの肘掛に付いていた腕を変えようと外して。
「・・・何か音がする」
「音?」
微かに響く、音。
「外からだ」
言うが早いか、たたっと男の後ろにある大きな窓に近寄る。
「・・・そうだな、何か聞こえるな」
男も耳をそばだてて、聴覚が捕らえたらしくギシリと椅子から立ち上がった。
「んーーーー?」
窓にベッタリ張り付くエドワードの後ろに近寄り、彼の視線の先を追った。
「何か見えるかね?」
「んーー、あっ! 花火だ!」
「花火?」
「そう、あそこ!」
「・・・あそこ?」
どうも捕らえている場所が違うらしく、ロイは目を凝らしていたエドワードの頭の位置に近付こうと後ろから覆いかぶさるように窓に手を付いて腰を屈めた。
それにギクリ、と緊張した身体を気付かれないようにして。
「あぁ、本当だ。良く見つけたな」
遠くで微かに小さく、煙にも少し隠れてしまっている花火。
良く見ていると、気付く程度、の。
「・・・っ、隣の市位かな?」
「いや、更に隣じゃないか?」
本来大輪で見せる華が大分小さい。結構距離があるのではなかろうか。
「・・・今年は見られないかなーと思ってたから、小さくてもラッキーだな」
「見たかったのかい?」
ポツリと呟くと、風流とか雅はさほど好まないだろうに意外だな、と言う響きで聞かれた。
「旅してた時にさ、たまに花火大会とか祭にかち合ったんだけど、皆楽しそうで良いよな」
家族や友達、恋人同士が嬉しそうに鑑賞したり出店を回ったり。昔は母親と弟、幼馴染と巡ったものだ、と少し迷ってから言い添えた。
案外気の優しい男だから、もしかしたら気にするだろうか。
「・・・あぁ、そうだな」
チラリと鏡の状態になった窓越しに伺うと、特に男の表情に変化は見られなかった事にホッとするのと少し残念なのと。
「あ、終わりかな?」
「そのようだな」
フィナーレの合図なのか何発も連続で上がる花火。
「・・・」
「・・・」
遠くを見つめて静かに花火を追っていると、妙にロイの体温が気になった。
チラ、とガラス越しにもう一度だけ伺うと。
「っ」
「ん? どうかしたか?」
「い、いや何でも・・・」
キョトリとした男に何でもない、と告げる。
「何でも、と言う訳では無いだろう?」
「何でもねぇ! ほら、花火終わったし仕事仕事!」
後ろから覆いかぶさっていた男から抜け出すと、ロイは少しだけ残念そうな顔をしたように、見えた。
「エルリック少佐は厳しいなぁ」
「上司がサボってばかりだと部下は優秀に育つもんで。だからアンタの直属の部下の評判良いんじゃねぇ?」
ニヤリと笑うと、男は降参、と言うように大人しく机に付いた。


「・・・来年、花火を観に行こうか」
「え?」
振り返っても、男は書類に目を落としたまま。
その後何も言わずにサインをしている彼に、聞き違いか、と思いながら。
・・・そうじゃない、と思える自信が1つ。

花火のフィナーレ。
窓越しの彼は、とても、優しい瞳で、自分を見ていた。

だから。

「よし、終わった!」
カタン、とペンを置いた彼に歩み寄って、ジと覗き込む。
「鋼の?」
「・・・おう」

会話の繋がらない応諾の一言だけ返すと、男は一瞬目を瞠った後、今度は間近で優しい笑みを返して来た。

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昨夜、遠くで音がするなー、と思っていたら別の市の花火大会でした。
遠く〜で花火がチラチラ見えました(笑)。
そんなネタから。
・・・本日委託の「イロコヒ」にも花火ネタが。・・・夏のネタもう少し他の無いんですかアナタ、な_| ̄|○
夏って暑さは苦手なんですが、夏の風物詩が好きなんです〜。

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